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その六(阿苑)

※短文です。

「阿高…好き」

唐突にそう聞こえて阿高は身を固くした。
背におぶさっている苑上は先ほどからすやすやと寝入っているのに、随分はっきりとした寝言を言うものだった。一瞬どきりとしたあと、阿高は顔を引きつらせる。
居心地の悪い視線が背に突き刺さるのを、いやというほど感じていたのだ。

「おいおい、なんだなんだ」

調子の良い藤太の声が聞こえてくる。阿高が唇を真一文字に結んでだんまりを決め込むと、わざとらしい口笛が聞こえてきてつい舌打ちをしそうになる。これは広梨だ。

「阿高、返さないでいいのかよ。別に俺たちに構わないでいいんだからさ」
「どんな夢見てんだか」
「寝言にまで出てくるなんて、よほど毎日言い慣れてるんだろうな」
「そりゃあ、まあ、初々しい新婚だからな」
「いいねえ阿高」

「お前ら、うるさい」
勝手なことを想像して後方は大いに盛り上がっていたので阿高は思わず口を挟んだ。

藤太は笑いを含んだ口調でからかってくる。顔を見なくともにやついていると分かる口調だ。
「鈴は素直だからな、ああやって口を開くたびにお前に好きだとか大好きだとか、愛してるとか言ってくるんだろうけども…」
「言わねえよ」
「じゃあ毎夜か」
「言わない」
「じゃいつ言うんだ」
「………たまにしか…、あ。」
口を滑らせたと気付いてからでは遅かった。彼らのからかいはより一層拍車をかけてきたのだ。
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このブログをどうするか

引っ越し先のアドレスを取得したので、このブログを今後どうしようか検討中です。
折角作ったのでなにかに活用できないものか・・・。
アマゾンの紹介リンクを張り易そうなので、本の紹介ブログとかにしてもいいかもしれません。
また、本サイトに何かあった時の非常用とか?
もともとできれば雑記帳と普通のサイトのアドレスは分けておきたい(どちらかが何かあった時のため)という気持ちもあったりします。
どうしたものか。
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引っ越します

引っ越し先が決まったのでお知らせします。
まだ雑記だけですが、そのうちサイトすべてをこちらに移行しようと思います。
初めての有料サーバーです。ドキドキです。
http://kaki.extrem.ne.jp/diarypro/diary.cgi
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その五(阿苑)




「わたくしでも練習すれば、鞍を付けずに馬に乗れるかしら」

明日の狩の準備をしている阿高の背中に向かって、ふと苑上は話しかけた。阿高が振り向かずに聞き返す。
「…なんだって?」
「鞍を付けずに馬に乗りたいの」
ようやく彼は振り向いた。少し呆れた様子の彼を見るのは、嫁いでからもう何度目か分からなかった。
「どうしてそんなこと言い出したんだ」
「わたくしが裸馬に乗ったとき、鞍はどこかと聞いたら怒ったのはあなたでしょう」
初めて出会った頃のことを言ったのだが阿高はすっかり忘れたらしい。なんのことかという顔をした。
「言ったっけ」
「言ったもの」
説明しようと苑上が口を開くと、遮るようにして阿高は言った。
「さあ、忘れたけど。とにかくだめだ。滅多なこと考えるなよ」
彼は一言ではっきり切り捨てたが、苑上は食い下がった。
「どうして。阿高はそうしているでしょう」
「お前な、俺と同じに馬を御せると思っているんなら大間違いだ」
阿高は少々かちんと来たように返してきたので、苑上も少しむくれた。

「だから練習すればと前置きしたのに」苑上は続けた。
「広梨が、練習すればできないことはないって言ったわ」
「馬のことか?」
「違うけれど」
「ほら見ろ。竹芝でも女の子は裸馬になんか乗らない」

彼はもう言い勝ったと判断して、苑上に背を向けると支度の続きをし始めた。

(「女の子」だって。いつも甘えるなという癖に、こういうときばかりそんなことを言うんだから)

暫く苑上は面白くないと思っていたが、思いついて顔を輝かせた。
「分かりました、じゃあ阿高と乗ればいいんだわ」
「最初からそう言えばいいのに」
「阿高が後ろで私が前で手綱を取るの」
「はあ?」
阿高の肩が呆れたようにがくっと傾いた。
「いい考えでしょう」
「どこがだよ。見たことないよ、そんな奴」
「阿高」
「だめ」

まるで子供を相手するようにあしらう阿高に苑上は面白くないと思った。
「阿高の後ろに乗るならいつもと同じだわ」
「大人しくそうしておけよ」

苑上はふと思い付いて、急に阿高の背中に抱き付いた。
「いつも、こんな感じね」
阿高は驚いたようで、びくりと背中を震わせたが次の瞬間には体を左右にゆらゆらと振った。
「重い」
「ひどい」
くすくす笑って苑上が返す。阿高は諦めたようにそのまま 準備を続ける。

「それ、いつ終わるの」
ふと苑上が尋ねる。
阿高は、自分の背中から見上げる苑上に目線だけやって微笑んだ。
「もしかして誘っているのか」
苑上は目をしばたいた。否定しようとしたが、思い直す。
「…つまらないもの」
苑上の表情を確認すると阿高は声を落とした。
「昨日もしただろ」
そう言う阿高の声色にも、僅かに期待が見えて苑上は頬を赤らめた。
「わたくしだけなの?」
「まさか。…嬉しいよ」
向き直ると阿高は苑上の額に口付けをした。
「もう少し待ってろ」

復活へ向けて助走

日記更新強化中です。
復活へ向けて少しずつ走り出していこうと思います。

雑記帳(日記)

また、過去の日記の記事を一覧にまとめたページを載せておきます。(昔サイトで公開していたものと同じです)

薄紅語り
古代史語り

薄紅語りの方では薄紅天女以外の荻原作品について触れた記事も一緒に載せています。
古代史語りはもっぱら古事記と万葉集のことについて書いています。
どっちもにわかの素人が一生懸命あがいた跡です(笑)
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こちらは「干し柿の数え歌」避難ブログです。2013年2月以降メインのサイトが閲覧できなくなるので、こちらに避難しています。固定アドレスが決まったらお知らせします。
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